歴史と職人技
一本の鉄が、数百年続く伝統的な火造りによって究極の刃物に生まれ変わるまで。
刀工から野鍛冶・包丁職人への軌跡
戦国時代、日本の刀匠たちは「折れず、曲がらず、よく切れる」究極の武器としての日本刀を追求しました。江戸時代に入り260年以上の泰平の世が訪れると、刀の需要は激減。職人たちは、農具の鎌や鍬、当時伝来した煙草の葉を刻む「たばこ包丁」、日用のハサミなどへその技術を応用させました。
明治9年の「廃刀令」により日本刀の所持が禁止されると、刀匠たちは完全に生活刃物の製造へと転向しました。その末裔たちが、今も当時と変わらない炎、鉄、そして熱い情熱を用いて、世界に誇るキッチンツールを作り続けています。
堺打刃物の製造工程(鍛冶編・10工程)
数百年続く伝統の火造りと鍛接。炉の炎と職人の感覚によって一本ずつ手打ちで鍛え上げる、堺打刃物の基本工程です。
1. 刃金つけ(はがねつけ)
地金(軟鉄)と刃金(鋼)を接着する。赤く熱した地金をたたき、硼酸、硼砂、酸化鉄などで接着剤をつけた刃金とを合わせ、炉に入れて熱し、火造りしていく。
2. 先付け・切り落とし
火造りした材料を動力ハンマーでたたきながら、だいたいの包丁の形を整えていく。たたいていくうちに、地金と刃金をなじませ、のばす。ほぼ形になったらたがねをいれて切り落とす。
3. 中子とり・整形
再び炉に入れて熱し、ハンマーで整形する。たたきのばしながら柄になる部分(中子)を形づくる。
4. 焼きなまし
整形できた包丁をわらの中に入れ、灰になる過程で徐々に熱をさます。
5. 粗たたき・裏すき
熱をさました包丁の表面の酸化皮膜をハンマーでたたいて剥がし、動力ハンマーで荒たたきをする。その後グラインダーで裏(刃金が付いている側)を研磨し、くぼませる。このくぼみにより、刃の逃げができて物が切れる。
6. 仕上げおろし・断ち回し・歪みとり
さらにハンマーで全体をたたき、ならしていく。この行程により包丁が鍛えられ、鉄が打ちしめられると同時にひずみやゆがみを取る。たたきのばされた包丁を型に合わせ余分を断ち落とす。
7. 刻印打ち・摺り廻し
ゆがみやひずみを取った後、裏に刻印を打つ。そして全体をグラインダーで仕上げる。摺り廻された包丁を再度ハンマーでねじれなどの修整をする。
8. 泥塗り・焼き入れ
油分やよごれをとり、焼きむらをおさえるため泥を塗る。その後炉の余熱で乾かし、750〜800℃に加熱。そして一気に水につけて熱を取る。この時泥が塗ってあることで大きな泡ができず、素早く均等に焼き入れすることが可能になる。焼き入れにより、刃金の硬度が高まる。
9. 焼きもどし・泥落とし
さめた包丁を再び炉に入れ熱し、水滴をたらしてその走り具合で温度を見る。技術と経験を要する高度なテクニックである。近年では160〜180℃の温度管理ができる機械による焼きもどしが普及している。これにより、刃金に粘りが出て欠けにくい刃ができる。
10. 歪みなおし
焼き入れの際に生じた歪みを直すため木製台の上に置き槌で打って直す作業。